「それでは……」

「人質としては、この上ない人材たちだろうな」

 クリスの額に脂汗が浮かぶ。彼らの人質としての価値は、既に自分と空港長の反応にも表れていることに、彼は気づいていた。

「とにかく、細心の注意を払ってくれたまえ」

 それだけ言って、空港長は電話を切った。

 それを待って、彼はすぐさま立ち上がる。

「9時48分発、グラスゴー国際空港行き、エアバス・287号便担当の管制官!」

 素早く1人の管制官が反応して、声を返した。

「はい」

「すぐにパイロットとコンタクトを取れ。それからジェームズ」

 クリスは、信頼する副官長の名を呼んだ。
「はい」

 副官庁と呼ぶには抵抗のあるほどの若者が、ただならぬ雰囲気を察知して表情を険しくする。

 チューリヒ工科大学出身の生粋のエリートは、初老を過ぎたクリスとは、ともすると親子ほどの年齢差があった。

「すぐに警戒レベルを3に設定しろ」
 そしてクリスの言葉に管制塔が静まり返り、彼に視線が集中した。警戒レベル3は、現実的な危険が差し迫っていることを表している。

 その時、ふと、彼は思い出した。

 ゲシュタポ――それは遥か昔、ナチスドイツの擁した秘密警察の名であった。