「いわゆる犯行予告だ。『ゲシュタポ』とか言う、聞かない名前のテロリストからだが、内容は凶悪だ。心して聞け」

「はい」

 クリスはゲシュタポと言う名に聞き覚えがあったが、それ以前に罪悪感に駆られた。思えば先ほど自分が冗談交じりに考えたことが、このような形で実現していたわけである。

 すぐさまペンとメモ帳を取り、彼は伝達に備える。

「どうぞ」

 彼がそういうと、間髪入れず空港長の声が聞こえてきた。

「9時48分発、グラスゴー国際空港行き、エアバス・287号便――」

 空港長が区切るまでも無く、クリスのメモ帳には言われたことがほぼそのままの形で書き記されている。

「どうぞ」

「以上だ」

 クリスは、またも少し拍子を抜かれた。しかし、これだけでも立派に犯行予告となる。

「もし彼らがハイジャックでもする気なら、メールは当日、しかも便が発着してからしか送る機会は無い。が、このメールはその条件をぎりぎり満たしておる」

 空港長が苦々しく言う。その便は、30分程前に離陸したばかりだ。

 クリスの額にも、汗がにじみ始める。

「可能性は高い。迅速に行動するように」

「はい」

 用件は以上でよろしいですかと言う前に、やや沈んだ口調で空港長が付け足した。

「もう1つ、伝えておくべきことがある」

「なんですか?」

「その便には、チューリヒナショナルスクールの生徒達が搭乗しておる。修学旅行の往路だ」

 その言葉に、クリスの表情もこわばった。