「この後、どうする?」
車に戻ると彼はそう聞いてきた。
「帰るよ、仕事忙しそうだし」
「了解」
エンジンがかかった車は揺れ、店を出た。
車道に出るため歩道を横切る。自転車の邪魔をしてるのか、彼は頭を下げて聞こえもしないのに、すいませんと小さく謝った。
こういう変に優しいところが彼の良いところ。
車に乗る時だって、先に運転席に座り、助手席に置いた私のカーディガンを手にする。私が乗る時に邪魔にならないように、小さな気遣いをしてくれる。
きっとモテるんだろうな…と、一つ一つの行動で感じる。


「トイレ行きたいから、コンビニ寄るよ」
彼はそう言うと、コンビニに車を止めた。
「真奈も来る?」
私はシートベルトを外し、車を降りた。
日中のコンビニには、彼と同じような営業の男性が車を停めて、昼寝をしたり、タバコを吸ったりしているんだ。

コンビニのお菓子売り場で新作のチロルを眺めていると、彼が出てくるのが分かった。
奥のドリンクの前に立ち止まる彼の横に立つ。
私は顔に似合わず長身と言われるくらい背が高い。並ぶと彼とあまり変わらないくらい。少し気持ち私が小さいが、ヒールだって構わず履く勝手な性格なので、隣に立つ男性は意外に嫌がる。
「なんか飲む?」
私がミルクティーを選ぶと、彼は手を出した。
私がボトルではなく、手を繋ぐと彼は違うってと笑った。
知ってる、払うから貸せって意味くらい分かってる。
私が手を繋ぎたいから、わざと間違えたって気がついているのかな。

「あっ!」
レジに向かう途中で彼は止まった。
「これ探してたんだよね」
彼はボールペンの替え芯を見つけて手にとった。
「あたしもそのピンク使ってるよ」
「そうなんだ」
それも嘘。使ってない。ちょっとした接点が欲しいだけ。今度実際に買って使えば良いかな…。また、小さな爪痕を少し残す。