ファーストフードの店を過ぎ、車の拾いやすそうな場所を探す。
右手に握りしめた携帯が震えた。
『もしもし、着いたよ』
「えっ、どこ?何がある?」
『うーん…何が良いかな?』
目印になる建物を探す。
「今、レンタル屋さんが見えるよ、その道沿いにいる」
『あー、あそこね。ちょうど良い』
その瞬間目の前を通り過ぎた車がクラクションを鳴らす。彼の車だ。
ちょうど信号で車が停まる。私は急いで車にかけより、彼の顔を確認しないまま急いで車に飛び乗った。信号が青に変わる。後ろのトラックに鳴らされないか、そんなことばかり気にしていた。

車内では、電話と変わらない彼の笑い声が聞こえる。
「ナイスラン」
「ナイスランじゃないよ…走らせるなんて」
「タイミングがちょうど良かったからね」
スーツ姿を見るのは、これで6回目。彼はハンズフリーを外しながらこちらをちらりと見た。
「今日は眼鏡違うんだ、こっちの眼鏡嫌いだっけ?」
「うん、もう少し太めの黒ブチが良い」
彼はルームミラーを覗く。
「仕事中はね、この眼鏡にしてるんだよ。真面目そうに見えない?」
彼はそう言って私を見た。
「胡散臭い営業に見える」
彼は笑いハンドルを握る。
「どこ行こうか?何食べたい?」
私がどんだけ彼をけなしても、彼は笑う。そして、私に優しい。怒んないの?と聞いたことがある。彼は、『真奈が本気で言ってないことぐらいわかる』そう答えた。私の照れ隠しは全てわかってしまっている関係だ。

交差点の右に見えたパスタ専門店を指差し、私はパスタと呟いた。
彼は、良いねと笑い、右折した。