携帯が震えた。

着信画面には『沢部さん』と表示されている。
画面を指で触れ、受ける。


『もしもし』
久しぶりに声を聞いた気がする。前に会ったのは5月末だから、まだ10日も経ってないのに。

「事務所?」
彼との電話は決まって平日の夜。必ず仕事場から。
土日は彼女が彼と過ごすから、私が平日をいただいているのだ。

『声聞くと会いたくなるね』
そう思うなら会いに来てよ。時間を作ってよ。
そう思うけど、声には出せない。
『真奈?どうしたの?』
彼は何も話さない私を心配した。
「ごめん、何でもない」

『さっきのメール何?』
私が会社から帰る時に送ったメールのことだ。
『しっとりした感覚で好きとか、気分落ち着いたとか。冷めちゃった?』
彼はすごく心配性だ。悪い言い方をすれば、気にしすぎ。ネガティブ思考過ぎる。
「メールにも書いたけど、良い意味で落ち着いたんだよ」
わざわざ彼の性格を気にして入れた文章なのに。

私は昔から気持ちの伝え方が下手くそで、言葉足らず。自分の中で浮かんだ単語をぷつぷつと発してしまう。あとから説明がいるタイプだ。
『言葉が通じない』と高校生の頃は他人と交わることも嫌った。
感覚が重なる人と一緒にいたい。それが私の願い。沢部さんとはそのあたりの相性が良いような気がする。でも、たまに違うような気もする。なら、誰が私と重なり合うのか分からなくなる。

「激しさじゃなくて、落ち着いた気持ちで好きってこと」
私がそう説明をすると彼は納得したようだ。
付き合い始めの恋人同士のように、ただ熱く求め合うより、そっと側にいれて、さらさらとしていたい。肌が触れ合っても、暖かくて安らぐ関係でいたい。

望む形でいれる人たちなんか、この世の中にどれくらい存在するんだろうか。
そして、みんなは私に何を望むのだろうか。