彼とお風呂に入るのはニ回目。これは私たちしか知らない数字。
一回目は、お湯が熱すぎた。二人して汗をかきながら入った。

今日は適温だ。彼と向かい合うようにして湯舟に浸かる。泡の立つ入浴剤を入れてジャグジーのボタンを押す。湯が掻き混ぜられ、あっと言う間に、湯舟から溢れそうな程の泡が出来る。ミキサーで混ぜたメレンゲみたい。
彼は泡を手に取ると、子供のようにかき集め、高く積み上げようと塔のようなものを作る。
きっと小さい頃、雪でかなりはしゃぐタイプなんだろうな…。私も彼のタワー制作に参戦する。自分の背中の後ろまで回った泡を集め、彼に渡す。
彼は笑い、高く高く積み上げる。

彼は顔いっぱいに泡を着け、ヒゲみたいに顎に泡が垂れた。
「そんなんじゃ、キス出来ないよ」
私がそう言うと、彼は蛇口からお湯を出し、顔を洗った。
また唇を重ねる。顔から滴るお湯とは違う甘さを舌で感じる。美味しくて、優しい味がする。

彼の手が、泡と一緒に私の身体を包む。泡の中から彼の指は私の皮膚を探し、触れる。
彼に触れられるのが好き。初めて触られた日は、彼の手の感覚が忘れられなくて、ずっと一人で探すように彼を思い出した。

一人にしないで、そんなこと一緒にいる時は思いもしない。彼が隣にいれば、そんな悲しい言葉なんて知らないままでいれるのだから。



湯から上がるとシャワーを浴びた。
ボディーソープを身体に付けて洗う。私は手についた泡を彼の背中に付ける。
ゆっくりと背中を撫でると、彼は気持ちいいと喜んでくれた。
私は彼の背中に抱き着き、自分の胸を押し付ける。そして、こすりつける。彼はぎゅっと私の手を掴み、より私を引き寄せる。
私は彼の胸に手をかけ、指で調べるかのように彼の身体に触れる。

彼はまた振り返り、私にキスをした。私は彼の首に腕をかけ、抱きしめながら彼と重なる。
もっと近づきたい。その気持ちだけなんだよ、そう言葉に出せない分、私はただ彼にすがるしかなかった。

彼はどんな気持ちなのか。
「彼女のこと考えたりする?」
そんな質問をしたら、彼は首を振った。
「真奈しか考えてない」
嘘かどうか疑うことなんか出来なかった。嘘だと思いたくない。私がきちんと肯定しなくちゃいけなんだよ、そう自分に強くお願いをした。