ホテルに着くと、彼は上着を脱いだ。
部屋を決めるために、頭を巡らせた私も暑くなり、カーディガンをソファーに置く。
トイレとお風呂場を覗いて部屋に戻ると彼はネクタイまで外していた。

「ネクタイ…」
彼は笑い、もう一度首に巻き、洗面所の前に立った。
私がネクタイを外すところが好きだと言ったことを覚えていてくれたんだ。

ネクタイをし直した彼は私の喜んだ顔を見て笑い、そして、ゆっくりとネクタイを外した。
きつく結ばれた多角形がスルスルと一本の紐になる。折り紙みたいで、マジシャンみたい。
満足そうに私が笑うと彼はまたニヤッと笑う。

ベッドに二人で横たわり、彼は後ろから抱きしめてくれる。この瞬間が好き。
彼の手首にきつくかかったシャツのボタンを外す。
「脱がしてくれるの?」
そう言われると恥ずかしくなって、ベッドから立ち上がろうとする。
すると彼は、私の腕を掴み、引き寄せた。
「なら、脱がして良い?」
私はジタバタともがき彼から離れようとする。
彼の本気じゃない力でも、やはり私は敵わない。
「自分で脱ぐから!」
彼の身体を押しのけて、洗面所に走り逃げた。

洗面所の鏡の前に立ち、ワンピースを脱ぐ。
下着姿になり、ベッドに戻ると彼も下着姿になっていた。
グレーのボクサーパンツにゴムの部分がピンクのドット模様。
そう言えば、いつの日か、私の部屋下着の話をして、グレー地にピンクのドット柄の話をしたような…
その時の私は、そんなことにさえ気がつかなくて、後から思い返すと、彼の行動一つにさえ、私への気持ちが現れているように感じ取れた。

ただの偶然かもしれない出来事さえ、全てをプラスに出来るこの気持ちは、何よりも勝るエネルギーになるのだと。