「る、春姫?」


「どうなさいました?」




華苗と繭が心配そうに駆け寄って来てくれた。


あたしは作り笑いをすることもできずに、ひくりと引き攣る口元を手で隠した。




――――婚約?




そこで突然、ふっと頭をよぎったのは……最後に会った時の蕪城先生の言葉だった。


あの―――クリスマスケーキを一緒に食べに行くと、約束した日。


あたしが胡桃坂さんに脅されてると勝手に推測した蕪城は、溜息混じりに言った。




“…………チッ、やっぱりこうなったか”


“なんて条件を出されたんだ?……まァ…想像はつくが、な”




……今思えば、この言葉が引っ掛かる。


以前、胡桃坂さんの話が出た時に“校長先生も手を妬いてる”みたいなことを言っていた。


だから、胡桃坂さんだと特定したことには驚かない。


………そうじゃなくて。



どうして蕪城先生は、胡桃坂さんが出した条件にまで“予想”を付けることが出来たんだろう。


…どう考えても、前から蕪城先生と胡桃坂さんの間に何かあったからだとしか思えない。




『(でも、なにが…)』


「えー皆さん、わたくしから大事な報告がありますの。聞いてくださいますか?」




スピーカーから胡桃坂さんの声が響き、会場は一気に静まり返った。


…心臓が、バクバクと煩い。




「わたくし、胡桃坂絵理子………本校の数学教師である蕪城美葛先生と―――本日婚約いたしました」




ガシャンッ!!


自分の掌から食器が零れ落ちた音が、遠くの方から聞こえた。