思わず肩を揺らしたあたしを見て、胡桃坂さんがにやりと口角を吊り上げたような気がした。


あたしはあくまでも冷静なフリを崩さないまま、社交辞令の笑みを返した。




「そうですわ、赤城さん。わたくし、あなたにお伝えしたいことがありましたの」




ふふっと笑い声を漏らすと、さらに一歩近付いてきた。


身体を引くわけにもいかず、あたしはその場に立ち続けた。


耳元に、そっと胡桃坂さんの唇が寄せられた。




「わたくし、婚約いたしましたの―――――美葛様と」




がつんっと頭を殴られたような衝撃が、頭頂から爪先まで走った。


……みくず、って。




「ああ、名前ではわかりませんか?……あなたの大好きな、蕪城先生ですわ」




嘲笑うように鼻を鳴らし、胡桃坂さんはそっとあたしから離れた。


耳朶に残った不愉快な声と鼻につく甘ったるい匂いが、紛れもなくこれは現実だと言っていた。




『…………婚、約』





蕪城先生、あんなの……胡桃坂さんの嘘だよね?