くるりと踵を返した先生の背中を見ていたら、涙が溢れてきそうだった。
蕪城先生、行かないで。
思わず口にしかけたそれを、無理やり呑み込んだ。
痛い、痛い痛い痛い。
……なんで?
あたしがもっとちゃんとしたお嬢様だったら、こんなことにならなかったのに。
先生にも迷惑掛けること、なかったのに。
……ちがう。
お嬢様だったら、あたしが完璧なお嬢様だったとしたら………蕪城先生には、出会えなかった。
ただの、一生徒。
今のあたしだって、あの日がなかったらそれだけの関係でしかなかった。
『(………じゃあ、どうすれば良かったのっ…?)』
もう我慢、できない。
唇を噛み締めていられなくなり、嗚咽が漏れそうになった時だった。
「ほんっっっとにバカだな、お前は!!」
閉まる直前だった扉が、何故か再び開いた。
なんで、そんな言葉は二酸化炭素と一緒に吐き出してなくなった。
『……かぶ、ら…っ…』
予想だにしていなかった登場に、あたしは涙を止めることができなかった。
今までの我慢がなんの意味もなく、ぼろぼろと涙は溢れて止まない。
『……ひくっ、…なん、なんでっ…』
言葉を上手く紡げないあたしを見て、蕪城先生は大きな溜息を吐いた。
その瞳は、優しい。
「あのなぁ……俺があんな安っぽい嘘で傷付くわけねぇだろ?それともなんだ、嫌われたとでも思ったか」
にやりと口端を吊り上げた余裕の笑みに、あたしは掛ける言葉が見付からなかった。
蕪城先生は少し躊躇した後、また小さな溜息を吐いて―――あたしをそっと抱き締めた。