「………おい、なんで俺が焦ってんだよ」
やっと冷静になった先生は、少し顔を赤く染めていた。
ついに矛先があたしに向いたかと、覚悟を決める。
…胡桃坂さんの名前は、絶対に出さない。
前、あたしが泣いてたら胡桃坂さんの所為だと思ってたし…。
もしかしたら、先生が勝手に行動を起こすかもしれない。
……ただの自惚れでも、良い。
蕪城先生がここで教師を続けられるなら、あたしは我慢できるよ。
「胡桃坂だな」
『………………………………ち、違うですよ』
ええええええええっ!?
早すぎるって!
ちょ、蕪城先生!
あたし口調おかしくなっちゃったじゃん、気が動転しすぎて!
「…………チッ、やっぱりこうなったか」
舌打ち混じりのやっぱり、に含まれた意味を推し量る前に。
壁に押し付けられた手首を、やんわりと捕まれた。
『いっ…!ちょ、蕪城先生…!』
「なんて条件を出されたんだ?……まァ…想像はつくが、な」
…苛立たしそうに唇を噛む蕪城先生の顔が、近い。
両手首を押さえ込む力は到底振りほどけるようなものじゃなくて、あたしは困惑した。
……どうしたら。
ていうか、想像がつくって言われた………バレてるの…?
このままじゃ、胡桃坂さんに先生のことがバレちゃうっ…!
『…………っ、蕪城先生には関係ないでしょ!?離してよ!こんなことされて……迷惑なの!もうあたしのことは放っておいてよ!』