別に、母が片親で育ったことを恥じたことはない。
寧ろその環境で祖父と共に支え合って生きてきたことを、尊敬もとい誇りに思っているくらいだった。
『(でも、お母さんは…)』
母は、勉強がよくできる人だった。
今でも微積や三角関数、ベクトルに数列に行列。
高校数学で習う内容の公式や解法を、未だに鮮明に覚えている。
だから、あたしの持っている問題集だってスラスラと解いてしまう。
そんな素晴らしい母なのに、大学には行っていない。
……高校も、中退していた。
『(………大変、だったろうな)』
選択の余地がある。
自分の将来なんだから当たり前だと思ってしまうけど、世の中を見渡してみるとそうでもない。
現に母は、家庭の事情で中退をせざるを得なかった。
「お父さん……つまり春姫のお祖父ちゃんが倒れてね、入院費が必要だったの」
母は、叡京高校に首席で合格していた。