あたしが言い出したことではない。
これは―――母の意志だ。
『(…全く、困った母親…)』
まだ暢気に中学校へ通っていた去年のことを思い出し、小さく笑った。
そう、あれは……どこの高校を受験するかって話をした時だ。
去年・9月―――
そろそろ、というかもうとっくに志望校を決めておかないといけない時期。
…あたしはまだ、逡巡していた。
『叡京(えいけい)も良いけど、藍樂(らんがく)も良いなぁ……』
どちらも、県内にある結構有名な公立高校だった。
藍樂に至っては私服の高校で、人気が高い。
一応、模試の判定ではどちらもAが付いた。
正直、本番でその実力が出せるとは毛頭思わなかったけど、どちらかには受かる自信があった。
『お母さん、どっちも受験日が同じなの。どうしようかなぁ』
隣で家計簿を付けていた母が、困ったように眉を下げて笑った。
「……お母さんはどっちも選択できなかったからね。春姫の好きな方を、選んで良いのよ」
―――母は幼少期に自分の母、つまりあたしの祖母を亡くし父子家庭で育った。