―カラカラ…
そーっと、なるべく目立たないように教室の扉を静かに開けた。
始業チャイムが鳴るギリギリの時間に登校したことも相まって、誰にも話し掛けられることなく着席できた。
『(あたしの席、ちゃんとあったー!!)』
心の中でガッツポーズを小さく作り、密やかに喜びを噛み締めた。
…いやいや、まだ油断はできない。
もしかしたら、蕪城先生が皆の前であたしのことを暴露する可能性も…!!
あんな生徒を押し倒すやつだ、どんな卑劣なことをしてくるかわかったもんじゃない…!
『(とにかく今日はこのまま影を薄くして…)』
「あ、春姫さん!」
えええええっ!?
『かっ、華苗さん…!』
びっくりしすぎて、声が裏返ってしまった。
な、なんで華苗があたしの隣の席に座ってるの…!
「あの、私…春姫さんを待ってたんです。昨日、早退なされたでしょう?お身体の方、大丈夫でしたか?」
早口で一息に喋ると、華苗は黒々と輝く澄んだ瞳であたしを見た。
上目遣い、とも言う。
胸がズキンと痛んだけど、気付かないフリをした。
『…き…昨日は……ずっ…頭痛がどうにも止まなくて!!す、睡眠不足が全ての原因ですね。自己管理もできないなんて…情けないです……』
…ほんとだよ。
こんなにも心配してくれる友達がいるのに―――なんて、情けないの。