『(…っ、言っちゃいたい…)』




衝動に駆られて口を滑らせて良いほど、軽い話じゃない。


お母さんの願いを叶えるために頑張って来たのに…ここにいられなくなるかもしれないんだよね…。



ぎゅっとスカートの端を掴んで、あたしは無理やり口角を吊り上げた。




『心配させてしまってすいません。本当に、平気ですわ』




納得してくれたのか、単に始業ベルが鳴ったからなのか。


繭は小さく頭を下げて自分の席に戻った。


溜息を吐きたくなる衝動をどうにか堪えて、あたしはどこを見るわけでもなくただぼんやりと教室を見ていた。




『……?』




なんとなく視線を感じて顔を上げると、こちらを見ていた華苗とばちっと目が合った。


何故か、気まずい空気が流れる。


すぐに華苗は柔らかな笑みを浮かべ、ひらひらとささやかに手を振って来た。




『(………な、なんだったんだろ…)』




手を振り返しながらも、あたしの心はどこか上の空だった。