「他のやり方もまぁ、考えはしたんだが―――」
胡桃坂さんの目の前で止まり、蕪城先生は2本目のタバコに火を着けた。
喫煙するその仕草の全てが、なんだか色っぽい。
……な、なに考えてるの、あたし。
「経営権まで揺らいだ方が、お前の親父さんごと説得することができる」
……さっき、蕪城先生が会場に入ってきた時。
“オハナシ”が長引いたって、言ってたよね。
これのことだったの?
持株の5割を所持してるから経営権は自分のものだって、言って…。
胡桃坂さんとの婚約解消を、突き付けたんだ。
「自分が譲渡した所為で経営権を持ってかれるなんてな、憐れなもんだ」
ククッと嫌味っぽく喉を鳴らし、蕪城先生は冷笑を浮かべた。
……こわい。
なんだか先生が、知らない人みたいに見える…。
「私たちの両親を説得するの、大変でしたのよ?」
「蕪城先生に株を譲渡してくれだなんて。…ふふっ、成功して良かったですわ」
「……私が責任を持って、艷倉家と炎王寺家には謝罪をしよう。巻き込んで悪かった、と」
無償で譲渡した株は、また元の持ち主に返せるの?
そんな疑問を抱いたけど、聞けるような人が周りには誰もいなかった。