―――なんで、いるの?
そんな、格好で。
…なんで、なんで。
「よォ、春姫。“オハナシ”が長引いてな。遅くなって悪かった」
躊躇うことなく。
あたしのもとに向かってくる、あなた、は。
安っぽいダウン、
よれよれのパーカー、
ヴィンテージとも呼べないようなジーパン、
くたびれて黒ずんだスニーカー。
そんな、格好をしてるのに。
かっこよく見えてやまないのは、なんでだろ。
『…か…蕪城、先生…?』
あたしと初めて“素”で会った時と、同じような服装だった。
どこにでもいそうな、それこそ庶民の格好。
それでまさか、この会場に、乗り込んでくるなんて。
「なに泣いてんだよ、お前」
目元を優しく緩めて笑うその顔に、また泣きたくなった。
蕪城先生だ。
あたしのよく知ってる、同じ世界に住んでる、蕪城先生だ。
「しっかし……胡桃坂はやることがデケェな」
溜息混じりにそう呟くと、蕪城先生はステージに視線を向けた。
胡桃坂さんがこれ以上ないほどに目を見開き、間抜けにも口をぽかんと開けている。
「み、美葛さんっ…!!」
「あァ。なんだよ、未来の奥さん?」
薄く笑った蕪城先生の言葉に、スウッと頭の芯が冷えるのを感じた。