「あ、起きた?」



気づかれないようにそっと引き返して、ベットにもぐり込んだ直後。


航くんが部屋に戻ってきた。


それとほぼ同時に、玄関から鍵が閉まる音が聞こえた。


……おばさん、仕事に戻ったんだ?



「今日は帰るんだよね?
……って、もうだいぶ遅くなっちゃったけど。」



言いながら私の傍に歩み寄ってきた航くんは、いつもと何ら変わりない。


穏やかな口調に柔らかい微笑み。


ふわりと頬に触れた掌は、やさしくて温かい。


思わずまた瞼を閉じてしまいそうになる。


さっきまでとはまるで別人…ううん、違う。


さっきまでがおかしかったんだ。



「バスってまだあったっけ?なければ、俺が家まで送って行くけど……」



「あ…」



慌てて時計を確認してみれば、さっきよりもさらに時間は経っていて。


最終バスの時間はとっくに過ぎていた。



「送ってく。」



私の表情から察したらしく、小さく笑って立ち上がった航くん。



「……待って!」