航くんは、基本的に穏やかっていうかおおらかって言うか……


大抵のことは軽く受け流しちゃうから、滅多なことじゃ怒らない。


周りで揉め事が起こっても、うまくそれを沈めてしまうタイプ。


絶対に感情的になったりはしない。


そういう意味では、すごく“大人”だ。


だから、

私たちは今までケンカらしいケンカなんてしたことがない。



たとえ私が1人で勝手に怒っていても、航くんにうまくなだめられてしまうから……


ケンカにはならないんだ。








だから……


航くんがこんなふうになるのはすごく珍しいことで、
そうなる原因はひとつしかない。



「俺はもう、あの家とは関係ないのに…なんで、今さら行かなきゃいけないわけ?」



「関係ないわけないでしょう?
私は“他人”だけど、あんたにとっては……」



「俺にとっても、もう“他人”だよ?あの家を“追い出された”時点で、ね。」



「航……」



「母さんは、忘れたの?
あいつらに、どんな仕打ちを受けたのか……」