それ以来、私はずっと“航くん”で。
航くんは、私が“先輩”じゃなくなってからは、“みさきさん”って呼ぶようになった。
ごくたまーに、“みさき”のときもあるけど……
でも、基本的に“さん”がつく。
今までは、たいして気にしてなかったけど……変、だよね?
だって、私と航くんは“つき合ってる”んだよ?
もうだいぶ経つし、それなりに深い関係で……って、
そうだよ。主導権を握ってるのは完全に航くんなわけだし。
なのに、なんでいつまでも“さん”がつくの?
今まで気にしないでいられたのは、航くんの口から他の女の子の名前が出てこなかったから。
比べることがなかったから、なんだ……
「……別に、深い意味はなかったんだけどさ。」
私の顔を覗き込みながら、航くんは続ける。
「なんか、癖っていうか…呼びやすかったから?」
首を傾げる航くんが、嘘をついているようには見えない。
「でも、みさきさんが気になるようなら、改めるよ?」