つき合い始めてからの1年間、
航くんは私に何もしてはこなかった。


……あ、キスはされたけど。


でも、それも触れるだけの軽いものだったし、“それ以上”を要求してくることはなかった。


隙あらば襲いかかってくる今となっては考えられないことだ……



はじまりがはじまりだから、当然といえば当然なんだけど……








―――………

――……



卒業式の数日前。


誰もいない図書室。


いつものように過ごしていた私のところに、ふいにやって来た航くんが言った。



「先輩は今、好きな人っていないよね?」



“断定形”っていうのが引っ掛かったけど、



「いない、けど……」



素直に答えてしまっていた私。


その頃から、航くんのまっすぐな瞳にはなぜか不思議な力があって。

見つめられたら最後。


嘘はつけなかった。



「だよねっ」



私の答えを聞くと、まるでそれを見通していたみたいに航くんはにっこり笑った。