私は、慌てて身体を離した。
さっきのは、明らかに寝言だ。
たぶん、本人は無意識。
でも、私はわかってしまった。
「……さ…き」
はっきりとは聞き取れなかった。
だけど、それは“名前”だ。
彼女の“名前”。
それを口にした後、微かにコウちゃんの口元が和らいだ。
眠っているのに、笑っているみたいな……
コウちゃんの口から漏れたのは、
私じゃない女の子の名前。
わかっていたけど、
なんだかすごく悲しくなった。
そして同時に、すごくみじめな気持ちになった。
……やっぱりダメだ。
こんなんじゃダメだよ。
“好きな人”じゃないとダメなんだ。