「あのっ、じゃあ、以前のお名前は……?」
ドキドキしつつも、確信を持ちつつ聞く。
「前の?……って、何でいきなりそんなこと聞くの?
そもそも、何でそのこと知ってるの?」
水沢先輩は不思議そうに…いや、訝しそうに私を見た。
“家庭の事情”だもん。
調べなければわからないようなこと。
しかも、だいぶ前の話。
知り合ってすぐの後輩が知っているのは、確かにおかしい。
先輩の顔からはいつもの笑顔は消えていて、ちょっと怒っているようにも見えた。
でも、ここでやめるわけにはいかない。
「“成海”ですよね?」
「えっ?」
明らかに驚いている。
だけど、その表情が“肯定”を意味していた。
私は続ける。
「“成海 航”」
「なんで……」
「“コウちゃん”だよね?」
「へ?」
「私のこと、覚えてない?」