翌朝、二人は9時くらいに起きて身繕いをすませると、まおの提案で隣町のショッピングセンターに買い物に出掛けた。バッグが欲しい、というまおに、あんまり高いのは無理だと言うと、
「あんまり、って幾らくらい?」
と訊いてきた。
「ちゃんとしたブランドのでないと嫌よ。」
休職中の俺はローンは有っても貯金なんてほとんどなかった。こいつ幾らせがむだろう?厄介だな、と思いながらも、昨夜彼女を抱いたのが弱味になって断ることも出来なかった。
まおが物色している商品棚から三万円前後の品を二三彼女に指して示すと、うーん、と少し考えてから白いヴィトンのショルダーバッグを選んだ。
「これにするわ。ありがと。」
言葉とは裏腹にもっと高価なのが欲しかったのがありありだった。援交と変わんないな、と少し情けなくなった。援交、で思い出したが、俺は初めまおを、
「まおちゃん」
と呼んでいた。ところがこの買い物の途中で突然彼女は、
「「まおちゃん」、ってやめてよ。援交みたい。」
とむくれた。
「「まお」でいいわよ。あなたは…。あなたの下の名前って「ヒロシ」よね。じゃ「ヒロ」かな?」
「ああ、「ヒロ」でいい。」
「「ヒロ」なんて勿体ないわ、「ひ〜」で十分ね。」
「酷いこと言うなよ。」
「えへへ。」
まおは舌を出して珍しくおどけていた。似合わないまでも意外に可愛らしかったのが印象に残っている。
その後、いろんな売場を回った。洋品店に行けば、陳列してある商品を広げて、
「こういうチョッキ似合うわよ。」
「ジャケットはダメね。日本人の男には似合わないのよ。」
だの、自転車売場に行けば、展示してある緑色の折り畳み式自転車を指差して、
「こういうのオシャレよね。自転車買うならこんなのが良いわね。」
とまあ、ペラペラとよくしゃべった。俺と本気で付き合うつもりだというのが次第に鈍い俺にも伝わって来はじめていた。