日は既に沈み、景色は灰色のベールを纏い始めていた。俺は相棒のシトロエンZXブレークを東名高速を東に走らせていた。ZXの非力なシングルカムエンジンは、しかし健気に、ヤレたボディを駆っている。ダッシュボードの上のカーナビのモニターは、吉田ICまであと6㎞を示している。俺はポケットから携帯を取り出し、視線を前方から逸らさないようハンドルの上にかざしながらメールを送信した。
「もうすぐ吉田ICに着く」
いつもと同様、レスは素早く返ってきた。
「インターを下りたら右折して。1㎞位で突き当たるからUターン。少し進むと左手に大きな倉庫がある。そこの駐車場で待ってるにょ♪」
「にょ」って何だよ。苦笑しながらも、メールの主の18歳の少女に早く会いたくて、俺はZXのアクセルをさらに踏み込んだ。
インターを下り、メールの指示通りZXを走らせると、確かに左手に大きな運送会社の基地が見えた。しかし周囲はこれといった商業施設もなく、不気味に暗かった。
だだっ広い敷地にZXを滑り込ませたが、人一人いない。こんな暗くて人気のない場所を女の子が待ち合わせに使うだろうか?イヤな予感がする。 「嵌められたか?」
逃げようか迷った。しかし時計はまだ約束の6時には数分あった。躊躇ったが、その少女に会いたい気持ちが恐怖に勝っていた。俺はZXのエンジンを切った。