「姫花ぁ?」

あたしの屋のドアをノックしながらお兄ちゃんの声が聞こえた。

「何?」

あたしが返事をするとドアが少し開き、お兄ちゃんが顔を覗かせた。

「言い忘れてたけど、姫花が帰ってくる少し前に電話あったぞ。」

「誰から。」

「菱谷君。」

「菱谷君?なんだろう。」

菱谷君はあたしのクラスメイトで、クラス内ではムードメーカー的な存在の男子だ。

「いないって言ったら、明日直接言うのでってさ。」

「何を。」

「知るかよ、そんなの。」

それだけ言うと、お兄ちゃんは部屋から出ていってしまった。

菱谷君か。めずらしい。

そうは言ってもかけ直すべきだろうか。
菱谷君があたしに電話することなんて、そうそうない。
何か重要なことなのだろうか。

そんなことを考えながらも、あたしは布団にもぐりこむ。

本人が明日話すって言ったのだから、別にいいか。


菱谷君はムードメーカーで誰とでも仲がいいけど、唯一あたしとはあまり話さない。
それはあたしが距離を置いているからだと思う。
あたしも割とクラスの中心人物として生活しているので、菱谷君と接点がないわけではないが、どうしても菱谷君とはあまり話したくない。

嫌いなわけではない。でも、彼はあたしと同じ匂いがするのだ。
ムードメーカーというキャラクターは、つくられたものなのではないかと、あたしは疑っている。

つくられたキャラクターを演じる二人が関わるなんて、妙に白々しくて嫌なのだ。