あたしたちは今、お父さんの実家で暮らしている。

お父さんの両親、つまりあたしの祖父母は何年も前に亡くなってしまったので今はいない。

おばあちゃんとおじいちゃんは、この家でお蕎麦屋さんをやっていた。
そしてお父さんも引き継いでいる。

要するに、あたしの家はお蕎麦屋さんだってこと。
今年25になったお兄ちゃんは、数年前に大学を卒業してからは、ずっと修行中の身だ。
いずれはお父さんからお兄ちゃんへバトンタッチされるのだろう。

そんな我が家は街の商店街から少しだけはずれた、細い道の奥にある。
静かで、それでいて商店街も近いので、とても便利で暮らしやすい場所だ。

あたしは初めてこの家に来た小1の春から、ずっとこの場所が好きだ。

あたしはほとんどのことには無関心だけど、家族や家や、他にも好きなものくらい少しはある。
小1のあの日の、初めて会ったおばあちゃんとおじいちゃんの温かい笑顔は今でも胸に残っている。

ママとパパの両親は、二人がまだ大人になる前に亡くなってしまったらしく、それまであたしとお兄ちゃんには祖父母という存在がなかった。

ママがお父さんと再婚してから、初めてできた存在だった。

ちょっと独特な匂いを漂わせるおばあちゃんとおじいちゃん。
ニコニコしてて優しい二人が、あたしとお兄ちゃんは大好きだった。


おばあちゃんは絵を描くのがとても上手で、それに憧れたあたしは、将来絶対絵描きになると心に決めていた。

でも中学のとき美術部に入ってみてわかったのだけど、あたしには才能が無いらしかった。
小学校の時から薄々感づいてはいたのだけど、美術部に入って毎日練習すれば上手くなると思っていた。

確かに昔よりはマシになったけど、それでも美術部ではない普通の子たちの方が上手いくらいだった。

高校に入ってからもなんとなく続けてはいるけど、もはやあたしの中に絵描きになるという夢は存在していないのだ。