「あ、姫花お帰り。」

中学のときの可哀想な男子を思い出しながらボーっと歩いていたら、たばこやのかどを曲がったあたりでいきなりママに声をかけられた。

「あ、ママ。買い物?」

あたしはママが持っていた重そうなビニール袋に目を向けて言った。

「今行って来たところ。さ、帰ろうか。」


ママと話をするのは嫌いじゃない。
無関心なあたしがこんなことを言うなんて珍しいけど、やっぱりママはあたしのママだからなのかな。

ママとなんてことない話をしながら歩いていると、めがねをかけて背広を着た男の人が声をかけてきた。

「君!僕、こういうものだけど。僕のところの芸能プロダクションに入ってみる気は無い?」


あぁ、またか。

「すいません、興味ないです。」

あたしがきっぱりと答えると、男はしつこく付きまとってくる。

「やめてください、しつこいです。警察呼びますよ?」

そう言うと、男はあっさり引き返した。




「姫花、ほんとに興味ないの?」

ママは昔からあたしを女優かなんかにしたがっていた。

「うん。」


あたしが答えると、そう、と言った。