俺はなるべく普段通りを意識して返事した


本当は動揺していた




「なにを?」




「あのね、波くんはあたしを助けてくれたじゃない?」



「うん」



俺は聞かれて嫌な予感がした



手に冷や汗が滲む



動悸が激しくなる



「なんかね、それを見てる人がいたらしいんだけど…、あたしが誘拐されたように見えたらしくて」



春菜はそう少しずつ言ってから、すぐに慌ててフォローする



「でも、聞いただけだし、疑ってるわけじゃないの!だって波くんが誘拐する意味もないし!ただね、一応聞いたほうがいんじゃないかって、言われて…。それで一応…」



春菜はそう言ってから、俺を見て、「違うよね?」と確認した



嫌な予感的中した―



俺はすっかり動揺してしまって、声が出なくなってしまった



春菜の顔も直視できなくなっていた



頭の中では否定する言葉が浮かんでいるのに



確かに事実のあの時の、春菜を睡眠薬で眠らせた光景とか、車に乗せた春菜の体の重みとか感覚とかがふいに鮮やかに蘇ってきて、怖くなった