「先生は何飲みます?」
すでに彼女は飲んでいたのか、手元にはピンクに彩られた淡いカクテルがあった。
「お酒、飲みますよね?」
「あー…いや、今日は車だから」
俺はそう言って、やんわりとノンアルコールをオーダーする。
向かいのバーテンに目を向ければ、隣から少し残念そうな声が飛んできた。
「なーんだ、つまんないの。せーっかく先生と一緒に飲めると思ったんだけどなぁ」
クスっと笑いながら俺を見る彼女。
無邪気に赤く染めるその仕草は柔らかく。
それは、以前とはまるで見違えるような健康的な光景だった。
「あ、でもこの前は急に病院まで押しかけてしまってすみません」
ペコリ、彼女が頭を下げる。
それは先週、ちょうど果歩と入れ違いで病院に訪ねて来た日のことで
「いや、別にそれは構わないけど……」
そう当たり障りなく答えれば、彼女は安心したようにカクテルを飲んだ。