「そ…ですか……」
それから、何かを考えるように俯いた彼女に特に言葉をかけることなく一緒に控え室を後にした。
ちょうどエレベーターに乗る寸前、現われた神崎ミサの父親にも適当な挨拶を交わし、俺はその場を上手く切り抜けた。
中肉中背のいかにも社長といった風貌を醸し出した親父。
「今日はうちの娘をよろしくお願いしますね」
一見真面目で誠実そうに見えるけれど、この手のタイプもまた腹の底では何を考えてるのか分かったもんじゃない。
実際あのうちの頑固親父と親しく付き合える仲だ。
かなりの要注意人物には違いはないはずだ。
「先生?乗らないんですか?」
「ああ、今……」
俺は立ち止まり、去って行く神崎の父親の背中を無意識に見つめながら、エレベーターに乗り込んだ。