優芽は佳奈とは全く真逆の性格をしていた。見た目は佳奈と同じくらい派手だけど、恋愛はいつだって真面目。
あ、佳奈が決して真面目じゃないわけじゃないよ。
でも優芽みたいに一人の人と長続きしないし、優芽は喧嘩とかしても全然慌てない。
佳奈なんて喧嘩なんかしたら、わんわん泣いちゃうしメールも電話も毎日しないと嫌。
でも優芽は学校で彼氏と電話やメールをしない。
相手が社会人ってこともあるんだろうけど、社会人でもお昼ご飯の時にはスマホいじれるでしょ?
「ご飯何食べてんのー?」とか「今日会おうよー」とかそんなメールも優芽はしない。
なんでって聞いたら『別に夜連絡してるから』って言われた。
夜だけなんて絶対にありえない……!
それも優芽に言ったら、仕事して疲れてるから夜だけで十分だよって言われた。
やっぱり優芽は真面目だ。
それで彼氏の体調を優先できるのは大人だと思う。
大人の人と付き合えば自分も自然と大人になれるのかな?
恋愛ってそういうもの?
それとも優芽みたいに2年も一人の人と付き合えば佳奈だってそんな風になれるのかな?
「恋愛を長続きさせる秘訣は?」
思いきって優芽に聞いてみた。優芽はファッション雑誌をめくりながらこう言った。
「本気で恋愛すること」
なんだ、それなら佳奈だってやってるよ。
いつも結婚したいぐらい好きになって、彼氏ができたら絶対にプリクラを撮る。
ちゅープリは当たり前だけど、落書きにはいつも〝ずっと一緒にいようね〟って書く。
佳奈はいつだって本気だし相手も同じ気持ちでいてくれてると思ってた。
でもその恋は長続きしない。
重いとか面倒くさいとか言われて1か月も経たない内に振られちゃう。でも最近は佳奈の方が振る率は高いけど。
だって全然優しくしてくれないし、メールも電話も毎日してくれない。いつも男友達を優先されて、普通彼女の方が大事でしょ?
佳奈って男見る目ないのかな……。
周りの女の子達を見ると少しだけ佳奈とは違う。
失恋した次の日には目を腫らして登校してきたり何日も学校を休んだりする。
ご飯が食べれなくて激やせしちゃった子もいるぐらい。
佳奈は失恋してもモリモリご飯を食べる。だってお腹が空くんだもん。
佳奈はよく泣くけどそれは自分のためで相手を想って泣いたりしない。
別れて相手を引きずって次の恋ができないなんてことはありえない。いつも早く新しい彼氏ほしいなーとか思っちゃう。
うーん。まあ、本気の形も人それぞれ違うしね!
きっと佳奈には沢山の運命の人がいるんだと思う。
だからすぐに新しい人が現れちゃうんだ。でも今回はなかなか彼氏ができなかった。
正確には優芽に監視されてるって言った方がいいかも。
『たまには慎重に男選びな』とか耳にタコができるほど言われ続けている。
もう2週間も彼氏がいない。
佳奈にとって最高記録かも!
そんな時、ある噂を聞いた。
『一年生に王子様がいる』
あちらこちらで女の子達がきゃっきゃっとはしゃいでいた。
王子様!?佳奈も王子様に会いたい!
「ねえ、ー年生に王子様が……」
優芽に飛び付きながら言おうとしたら「やめときなよ」と速攻で言われた。
優芽はいつもクールで冷静で佳奈の未来が見えてるみたいに色んなことを言い当てる。
優芽が間違ったことを言わないのは知ってるけどそんなに即答で言わなくても。
「なんでー?佳奈次こそは本気で本気の恋愛する!王子様と」
すると優芽は佳奈の頭をポンッと叩いた。
「その王子様が本気にならない人なんだからどうしようもないでしょ」
本気にならない人?
佳奈が本気になっても王子様は本気になってくれないの?
「そんなの分からないじゃーん!!」
佳奈は子供みたいに大声を出した。だけど優芽はお母さんみたいに佳奈の頭を撫で続けていた。
「会ってみれば分かるよ」
そう言いながら。
……そうだ!会ってみよう王子様に。
次の休み時間、一人で一年の階に行ってみた。
本当は一人じゃ寂しいから優芽に行こうって言ったら『一年の若さ溢れる空間にいたくない』とおばさんみたいなことを言われてしまった。
若さって……ひとつしか年齢変わらないじゃん。
優芽は大人っていうかおばさんみたい。そんなことを言ったら怒られちゃうから絶対に言えないけど。
「ねー王子様ってどこにいるの?」
廊下にいた男子生徒に聞いたけど首を傾げられた。佳奈の声が大きかったのかクスクスと女子生徒がこっちを見て笑っている。
……むっ!今の一年って性格悪い!佳奈が一年の時はちゃんと先輩を敬ってたのに。
もーいい!一人で探すもん!
1組から6組まで教室を覗いてみたけど王子様らしき人はいなかった。
ってか重大なことに今気づいた。佳奈、王子様の名前知らないや。
名前さえ分かればすぐに見つかるじゃん、と「王子様の名前は?」って聞こうとしたけどまた笑われそうだから一年に聞くのはやめた。
王子様の名前ってどんな名前?
白馬様とか白鳥様とか?
休み時間の終わりが近づいてきたから佳奈は3階から2階に降りていた。
佳奈の学校は一年生が3階、二年生が2階、三年生が1階だった。
優芽なら名前を知ってるかもしれない。教室に戻ったら聞いてみよう!
ウキウキで階段を降りていたら、3階に上がっていく男子とすれ違った。
うつ向いてて顔は全然見えなかったけど、ビビビッってきた。今までにないくらい。
佳奈はすれ違い様に男子の腕を掴んだ。
男の子なのにすごく細くて、もしかして佳奈より細いんじゃ……ってそうじゃなくて!
男の子はゆっくりと佳奈を見た。
なにも言わずにただ無言で。
目が合った瞬間、また身体中に電気が走った。
色素の薄い茶色の髪から見えたビー玉みたいな目。
「王子様だ……」
気づけばそんな言葉が自然に出ていた。
佳奈は少しだけ期待をしていた。きっと王子様だから声も綺麗な声なんだろうなって。
きっと優しく『なに言ってるんですか?』って笑ったりして。でも王子様は勢いよく佳奈の手を払った。
……あ、あれ?
そして一言「うざっ」と言って階段を登って行ってしまった。
あれ、顔は王子様だけど、なんか佳奈の思ってた王子様じゃなーい!
でも、でも別にいい。
もうビビビッってきたから。
運命の人だって思っちゃったから。
教室に戻って優芽に王子様の名前を聞いた。
〝冴木由希〟
それが王子様の名前だった。
なんだか急に由希のことが知りたくなって噂をしている女子達に聞いてみた。
〝由希ってどんな人?〟
するとみんな口を揃えて言った。
〝冷たい人〟
確かに王子様は冷たかった。佳奈の手を払ったし、うざいって言った。
でもそれが嫌いになる理由にはならなかった。
うざいなんて男にいつも言われてるし、たぶん冷たい人に対して免疫が付いてるのかもしれない。
由希のことを誰に聞いてもいい言葉は出てこない。
遊び人とか女の敵とか最低とか。
佳奈の王子様なんだから悪く言わないでほしい。
でもみんなそういう風に言うくせに由希の話ばかりをしてる。結局好きってこと?
もしかしてライバル多いって感じ?
でも仕方ないか。あんなに綺麗な顔をしてるんだもん。冷たくたって最低だって、みんな好きになっちゃうよ。
由希のことを聞いてる内に王子様は沢山の女の子と遊んでることを知った。それはもうあちらこちらに。
佳奈は優芽に真面目な顔をして聞いてみた。
「どうやったら由希と遊べるのかな?」
佳奈だって子供じゃない。
由希の遊ぶが普通の遊ぶじゃないことぐらい知っている。
佳奈も今まで沢山の人と付き合ってきたからそれなりの経験はある。でも彼氏じゃない人とヤったりしない。
いつも付き合ってからそういうことをする。
ね?佳奈ってけっこう真面目でしょ?でもヤった途端に別れようなんてことは数えきれないくらいある。
だから付き合ってヤっても付き合わないでヤってもなんか同じな気がする。
「由希は面倒なことは嫌いだけど、ただ体だけを求めるなら誰だって受け入れてくれるよ」
いつも大人で危ない橋は絶対に渡らない優芽の言葉に佳奈は一瞬固まった。
まさか優芽の口からこんなことを言われるなんて。どうせ聞いてもサラリと流されると思ってたのに……。
これでも優芽との付き合いは長い。男との付き合いは短いけど優芽とだけはずっと一緒。だから優芽のことはけっこう理解していたつもりだった。
「……優芽、由希とヤったことあるの?」
恐る恐る聞いてみた。
「うん」
優芽の返事は呆気ないほどシンプルだった。
正直ものすごくビックリしたけどそれ以上にショックだった。
それは佳奈の王子様と親友が知らない所でヤってたからじゃない。2年も彼氏と付き合ってる優芽が他の男としたことにショックだった。
でもきっと優芽にとってこれは浮気でもなんでもない。
〝なんで由希としたの?〟なんて聞かないけど聞いたら優芽はこう言う。
〝本気じゃないから〟
これは優芽だけじゃない。他の女の子もそうなんだ。
彼氏がいたり、他に好きな人がいたりしても由希を求める。それはみんな遊びだから。
由希が誰にも本気にならないから。
由希も女の子達も利用されて利用してるんだと思った。
由希は佳奈の王子様。
まだなにも知らないけど勝手に決めた。
だけど、きっと絶対王子様は佳奈を好きにならない。
佳奈が本気で好きになっても。