ふと甘い香りが
鼻腔をくすぐった――…

心惹かれる
それでいて切なくなるような

香りだった。


ゆっくりと目を開くと
唇に柔らかいものが触れる。


「ん……」


息苦しさに思わず呻く。

眩しい日差しが
視界いっぱいに広がるなか

人の顔が目の前で影を作っていることに気が付いた。


驚きで反応できずにいると
その影がゆっくりと離れていく。



「え……、か、つき?」



朝の陽の光を淡く反射する白い肌
コントラストをなす黒い髪。

そしてたった今
圭介の唇に触れていたらしい
淡いピンクの唇は

濡れてテラテラと光っている。



「おはよ、センセー」



(夢、か……)


虚をつかれ呆けていたのは一瞬で
自分の欲望がおりなす夢だと判断する。

だが
体を起こすと圭介を
突如強い頭痛が襲った――。



「いっつー……」



同じような痛みに
大学時代よく襲われていたことを思い出す。


「センセー
 昨日あんなに飲むから。
 お酒臭いし、二日酔いだよ」


呑気そうな霞月の声。

わかってる、と返しそうになって気付く。


(夢、じゃない……?)


痛い頭を堪えながら顔を上げると
見知らぬ部屋のベッドの上にいた。