「センセー、俺はね
 あの子のコイビトなんかじゃない。
 ――今はね……いや、一生なれないかもな」


惺の貼りついた笑みが
切なそうに歪む。


「俺はあの子から
 誕生日ひとつ教えてもらったことはないけれど

 あの子のことは全部知ってる。

 知りたいと思ったから――」


オレンジ色の髪をふわりと揺らして
惺はまっすぐに圭介を見た。



「センセーと一緒、かな」



惺はそう言って立ちあがる。

カクテルグラスを傾け
飲み干すと
コトンと音を立ててカウンターに置く。



「名前――…

 『霞月』って呼ばれて
 喜んでたよ」



ステージでは演奏を終えた霞月とドラムを叩いていた男が拍手に包まれ、笑いながら会話していた。


惺はまっすぐにステージに向かうと
サックスを手に取りつつ
二人になにか耳打ちをする。


僅かに目を瞠ったあと

霞月は満面の
そして極上の笑みを浮かべた――…


.