霞月が再びステージに立つ。
観客の視線は当たり前のように
霞月に持っていかれる。
ステージの上での彼女は
他のどんなときよりも
輝いていた。
キラキラと空に瞬く星のような旋律。
それに耳を傾けながら
圭介は惺との間に不自然に開いたスツールを見下ろした。
「――兄貴なのか?」
圭介がポソリと言うと
ステージの彼女を見ていた惺が横目で見返してきた。
「ん? なにがですか?」
わからないと表現する言葉の裏で
その表情は意味を理解しているように見える。
琥珀色のグラスをにぎりしめ
ピアノの音色とは真逆の低い声を出す。
「俺が――」
惺がフッと目を細めた。
「……センセーは、どうありたいの?」
唇を噛みしめることしかできない。
(どうありたい?)
高梨圭介は生徒である相馬霞月に恋をした。
でも相手は『生徒』で自分は『教師』だ。
この恋をどうこうするつもりは、
ない――…
だが――
霞月を知りたい、助けたい、と思っていた。
(どう……ありたい?)