「いいのか?」


「サービスですよ」


ニコリと微笑むその様は
当初圭介が惺に抱いたいけすかない感じをかき消すかのようだった。


確かに見かけはチャラチャラしているし
霞月とはベタベタしすぎているが

圭介に対するそれは
爽やかだった。



だが――…


(つき合ってないだって?
 そんなわけあるか)


圭介は心の中で毒づいた。



さっき惺が圭介の前から
唇の痕が僅かに重なる彼女のグラスを下げたのも

女が話しかけてきて
霞月が不機嫌になったのも

隣りに座る惺が
甲斐甲斐しく面倒を見ているのも

霞月が彼の執拗なボディータッチを受け入れているのも


全てお互いを想ってるからのはずだ。



今だってそうだ。

「カスミ」と彼女をよび、
「今日電話して」と耳打ちしながら彼女に渡された11ケタの番号が書かれた白い紙。

スーツを着た男が立ち去ったあと、
じっと紙を眺める霞月の手からそれを取り上げて

ライターで明かりをともし、
灰皿に放ったのは彼女を独占したいからのはずだ。


(兄妹以上恋人未満だって?
 冗談じゃない、どこが兄妹だ)


こんな甘い空気は兄妹ではありえない。


二人が演出する顔を顰めたくなるほど甘く蕩けるような空気に苛立つ圭介は

まるで、妹の恋愛に茶々を入れに来た兄貴みたいだ。


「……」


ハッとして霞月の顔を見た。