「ん? 自己紹介まだだった?」


戸惑うことも
悪びれるふうも
わざとらしさもない。

あっさりと簡単に
とりつくろった。


「私の名前だよ。
 たまにここでピアノ弾いてるの。
 21歳。 誕生日は――」


いつもとは別人のように自分のことを話す。


――が、
全てウソであることを

圭介は知っている。



大人びた横顔を見せる霞月は
顔を顰める圭介に
余裕の笑みを浮かべる。

そんな物腰は
高校生にはとても見えないだろう。


少し幼さが見え隠れするが
21だと名乗っても
誰も疑わないかもしれない。



「こんなところでなにしてるの?
 まさか夕食にきたわけじゃないでしょ?」


「店の中に入っていくおまえが見えたから」


「やっぱりスト―キング」



『カスミ』を演じているからなのか、
霞月は明るい声で笑う。

少し離れたところで
『カスミ』をチラチラと見ていた男たちが、その笑みに息を呑んでいるのがわかる。


『美しい――』


まさにその言葉。

しかもあれだけ艶のある演奏をした直後だ。

男たちは簡単に
彼女に釘づけになるだろう。