そこはショットバーだった。
カランと音を鳴らしながら店内に入ると、薄暗い二十席程の席はほとんど埋まっていた。
紳士的な雰囲気の男が圭介に話しかけてくる。
「いらっしゃいませ」
男に席を案内されながら
静かな音楽の流れる店内を見渡した。
先ほどの二人の姿は見えない。
(見間違いか?)
一瞬、そんな言葉が頭をかすめるが
そんなわけはない。
彼らは間違いなく階段を下りていったし、階段の先にはこの店しかない。
カウンターにいる男に
カクテルを注文し
さらにもう一度あたりを見回した。
そのとき
拍手が鳴り響いた――。
他の客の視線を追いかけ
そこにたどり着いく。
ハッと息を呑むその音を包むように
ピアノの音色が
耳に届いた――。
小さなバーには
小さなステージと
黒く光るピアノが置かれていた。
ピアノの前に座るのは
淡い色のミニドレスを着た霞月だ。
歌うように緩やかで甘い音色。
そして霞月が視線を向けた先に
オレンジ色の髪をした
あの男がいた――…