土曜――


残った仕事を片付けるため
昼過ぎに学校に向かった。



ここ数日
曇りと雨を繰り返していたが
今日は久しぶりに青空が覗いている。

初夏をうっすらにおわせる
爽やかな日差しの中、
校庭ではサッカー部の生徒が
走り回っていた。


学生時代のことを思い出す。

ついこの間だったような気もするのに
もうずいぶん昔の出来事のようにも感じる。

――しばらく生徒を眺め
教官室へと向かった……。


校内はひっそりとしていて
職員室には数名の同僚のみ。

英語の教官室に至っては
入れ違いに別の教師が帰っていき
圭介一人だけだった。


「音楽かけたら怒られっかな」


静かすぎて落ち着かない自分に苦笑しながら、鞄からウォークマンを取り出す。


選んだのは彼女がこの間弾いていた
ゴルトベルグ変奏曲だった。

霞月は一曲だけ弾いていたが、
ゴルトベルグは30の変奏曲と
アリアが最初と最後にあるらしい。


(おなじ曲でも弾く人間が違うと
 こんなに違うのか……)


初めて聞いた時は自分の耳を疑ったくらい
まったく別の曲のようだった。


彼女が弾いていた時は
繊細で儚さを感じさせるもののような気がしたのに

イヤホンから流れるそれは
むしろ活気のある明るい曲だ。



「……」



暫く耳をそれに傾けてから
改めてパソコンへと向かった――…