『生徒に恋をしている』



そのことに気づいて
圭介は少なからず混乱した。


まだ子どもにしか思えないような十代の高校生相手に、そんな感情が芽生えるなど本当に思ってもいなかったのだ。



――が、

逆に冷静でもあった。

圭介にはこの『恋』を
どうこうするつもりはなかった。


恋愛どころか
彼女が圭介に好意を持っている可能性すら100%ない。


しかもクラスで
浮いている存在の霞月に

圭介が少しくらい気を使っても
誰も何も勘ぐらないだろう。


「ま、気をつけるに越したことはねえよな」


教官室に誰もいないのをいいことに
一人ごちた。



――そう。

気をつけるに越したことはない。


何しろ圭介は
この数日の間に
あしげく音楽室に通っているのだから――…


音楽室にくる霞月はギプスもとれ

ピアノを弾くときもあれば
ただ本を読んだり
携帯をいじったりしてることもあった。

圭介が何かを言えば顔を上げるが
永久に続くかのような沈黙に陥るときもあった。

返事が返ってくるときもあれば
無視されるときもあり

身を切り裂くような毒舌が降ってくるときもあれば
柔らかな笑顔を返してくるときもある。


「基本気まぐれなんだよな……」


ただ
ピアノを弾いているときだけは
真剣、というよりは
楽しむように

安らぎながら
歌うように

そして、いつもよりも幼い表情を浮かべていた。



圭介はその姿にいつも
心を奪われた――…