圭介の授業など
霞月は見ても聞いてもいないかと勝手に思っていた。


でも確かに今――

彼女の中に授業をしている圭介の姿が残っていた。

なめらかに光を反射する黒い瞳は
ちゃんと彼を映している。


そんな当たり前のことに
軽く身震いするほど衝撃を受けた。



言葉を失っている圭介は
霞月の瞳にはどう映っているだろうか。


じっとまっすぐに視線を向け
また小さく笑うと

彼女は鍵盤に視線を下ろした。



さっき奏でたメロディーが
再び流れ出す。


さっきよりも少し深みを増して――…


緩やかに
美しく奏でられる旋律。

柔らかく
涙が出るほど切ない音色――。



ピアノと歌うように弾く霞月は

きれいで
どんなときよりも穏やかな表情をしていた。



そして圭介は

自分を惑わすこの感情の名前を理解する。


「恋――…」


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