『生徒』の質問としては
ありがちなものかもしれない。

でも霞月が聞いてくることに
強烈な違和感を覚えた。



「……俺はどちらかってーと
 落ちこぼれてた方だったからな
 大学も運で受かったくらいだし」


「運?」


軽く肩を弾ませて笑う彼女。

圭介を知ろうとする霞月の姿と笑顔は

さっき感じた絶望をあっという間にかき消し、緩やかに心を満たしていった――…


「そ、で、
 バイトで家庭教師してたんだ。
 そしたら予想外に教えるのが
 楽しくてさ」


初めての生徒だった中学生の男の子を思い出す。

やる気のなさそうな彼だったが
解説する圭介に食いつくように何度も何度質問を繰り返すその姿が凄く印象的だった。


「勉強できなかったくせに
 変な話だよな」


すると逆に霞月のほうが不思議そうな顔をした。



「なんで?

 だってセンセーは
 わかりたかったんでしょ?」



当たり前のことを指摘するかのように首を傾げる。



「意味のわからない言葉の問題
 わけのわからない解説

 そういうの
 わかりたかったんでしょ?」


見透かすような黒い瞳が
圭介の奥にあるものをぐっと捕らえて離さない。




「だから自分が教えて
 生徒がわかるのが楽しいんだよ。


 ……授業してるときのセンセーは

 すごく楽しそうだよ――」




ポツリとつぶやかれた言葉に
はっと息を呑んだ――…。