そのまま霞月と話すこともなく
――話しかける勇気もなく

中間考査のテスト週間を終え
採点などにかまけているうちに六月になった。



霞月は相変わらず
進んでクラスメイトと話しもせず

少し迷惑そうにしながら
休み時間になるとよってくる拓真の相手をし

ことあるごとに絡んでくる保川をあしらいながら
飄々と生活していた。


何に囚われることなく

自由に――。


少なくても
周りが見てる限りは――…



圭介はそんな霞月に
振り回されていることを
自覚していたが

人としても教師としても
彼女が置かれている状況に
妥協をしたくなかった。

けれど
彼女を取り巻く問題を解決するには

あまりにも自分は無知だった――…


入試の面接で言ったという
霞月の言葉を思い出す。



「なにも知らなければ
 なにもできません――」



その通りだと今になって痛く思う。


霞月は自分の周りにある問題を
いつか解決するために
さまざまなことを吸収しようとしているのかも知れない。




担任は教師生活が長いからなのか
決して生活態度がよいとは言えない霞月を気にする様子もない。

おそらくこの年頃によくある「反抗的な生徒」の一人として認識しているのだろう。


――だが、特別視はしていた。


二か月近く不登校だった彼女は
中間考査の全ての教科で満点に近い成績を修めた。

下手したら学年トップを争うくらいだ。


首席だったという霞月は
授業などでなくても
その学力を悠々と明示した。


そして

彼女の問題行動の全ては
進学校であるこの学校では「特例」として黙認されることになった。


それはすなわち
彼女に真正面から向かい合う教師は
現れないということを意味する。


そして圭介も
そのほうが「教師」として正しいのではないかと思い始めていた。





「彼」が現れたのは
そんな六月の出来事だった――…