そして僅かな沈黙が生まれた。



「――だから」



ワントーン落とした声は

たぶん
いや間違えなく

あきらめの音色。



「“教師”と“生徒”なんだから
 センセーはこれ以上
 私のこと気にしても
 しょうがないでしょ」



(ああ、そういう……こと、か――)



そのとき、初めて彼女を理解した。
あのとき言われた「バカだね」という言葉も……。


「センセーは私を家に置けないし
 私のことも助けられない。

 センセーは私のために
 “教師”は捨てられない」


霞月はそっとピアノの蓋を閉め
それを指でなぞる。


ゆっくりと立ち上がる霞月は

窓から差し込む光を背に受け
表情を隠した。


黒い髪が光り
白い肌が影に包まれる。


そして

紅い唇が
笑みをつくりながら

そっとひらかれた――。





「だから私はセンセーに

 なにも期待してない――…」





パタン――

ドアの閉まる音は
圭介と霞月の間の扉を完全に閉じた。




耳に残る柔らかな旋律。





心から虚しいと思った――…


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