「コラァーーッ、麻川!
職員室に入るときはちゃんと失礼しますを言えっ!」
生徒指導の保川の
顔を顰めたくなるようなハタ迷惑などなり声。
拓真がやけくそのように
「シツレーしてます!」
と言い返せば
当然
保川の声の不快指数はますます上昇。
だが圭介はもとより
怒鳴られている本人すら
まったく興味を持っていない。
「ほれ! 持ってきたよ」
拓真は怒鳴り散らす保川を無視しながら
ドサ――ッ
と音を立ててそれを置いた。
「お、サンキュ」
置かれたそれは
教科書やノートだった。
教科書には書き込みはおろか
マーカーひとつ引かれておらず
ノートに至っては
落ちた拍子についたと思われる
土埃以外は完全に新品だった。
要するになに一つ特徴がない。
しいて言えば
一年生の教科書だというくらいだ。
「これじゃ、誰のかわかんないな」
圭介が一人ごちながら開いた裏表紙に
整った文字が記されていた――。