「ただいまぁ
 お兄ちゃん帰ってるのー?
 今日早かったねえ」



ガタガタという物音と
ひときわ明るい声が

静かな空気を引き裂いた――



圭介はすぐに妹の莉子が帰ってきたのだと気付いた。


霞月の靴に気付かなかったのだろう彼女はそのままズカズカといつもの調子で部屋の中に入ってきた。


「あのさー、来週の――」


何か言いながら部屋に入ってきた莉子は
居間のドアを開けたところで
言葉を途切れさせた。



「……あ、え?
 あ、ごめんなさいっ!

 ――お兄ちゃんの学校の生徒さん?」


何とも言えない雰囲気で
テーブルの前に座る霞月を見つけると

莉子はあわてたように
身振り手振りをした。



ため息をつきながら
チラリと隣りをうかがう。


少しくらい驚きはしただろうが

霞月はそれをおくびにも出さず
いつもの読みづらい表情で莉子をじっと見つめている。


「ああ、俺が副担任しているクラスの子。
 相馬、妹の莉子、大学一年」


「こんにちはっ!
 本当にごめんなさい
 来てるって気付かなくて」


莉子は短い髪を乱しながら
勢いよくペコっと頭を下げた。



「――いいえ」



あわてる莉子に対して
霞月の声はいたって静かだった。



「こちらこそ、勝手にお邪魔しててすみません」



そう言って艶のある大人びた笑みをニコリと見せる。


それは間違いなくよそゆきの微笑だ――…