「車出せって言っただろ」
「車出せって言っただけよ」
圭介も圭介だが、霞月も霞月だ。
「ああ言えばこう言うとはこのことだ」
と思わず顔をひきつらせながらも
テンポよく会話ができていることに
喜びすら感じた。
「俺に命令したんだから
おまえも俺の言うことも聞けっつの」
調子にのり
思わずどすのきいた低い声を出すと
遠くに視線を置いていた霞月が
初めてクスリと小さく笑った。
「教師の言うせりふじゃないね」
目も合わないただの小さな笑み。
たったそれだけで
その表情に目を奪われた――…
「……生徒の言うせりふじゃないだろ?」
動揺。
そして
「もっと見ていたい」
という渇望にも似た感情を隠しながら言葉を紡いだ。
すると
霞月はまっすぐに圭介を見上げ
あどけなくも見える
年相応の自然な笑みを浮かべながら
小首をかしげた。
「なにして欲しいの?」
(こんな表情できるんじゃないか……)
ドキリとしてしまった圭介は
それを隠すように乱暴に口を開いた。
「だからほっぺた見せろっつってんだろ」
「べつに大したことないのに」
呆れたようにため息をつく霞月の顎を掴んで左頬を自分のほうに向けた。