ただ夢中で車を走らせた。

頭に血が上りすぎるくらい
ドクドクと無駄に心臓が鳴り響いていた。


混乱する頭で
必死で状況を把握しようとするが

一瞬空いたドアの隙間から見えた
ギラギラしたあの男の眼が焼き付いて
離れてくれない。


隣りにいる霞月は
じっと黙りこんだまま
フロントガラスの向こうを見ていた――…




不意に
「とめて」
と彼女が小さくつぶやいた。


ハッと我に返った圭介は

どれくらいの間車を走らせていたのかもわからず
言われるがまま
路肩に車を停めた。


「ありがと」


覇気のない空気が漏れるような声。
疲れ切ったような音色にも聞こえた。


車に乗ってから初めて彼女を直視する。



――もしかしたら普段と変わらないのかもしれない。


しかし
今の圭介には

霞月が少しこわばった表情で
頼りなげにしながらも

必死で前を見据えているように見えた。



「……ほっぺた見せてみ?」



かける言葉が見つからず
一番気になっていた赤くなった頬を指摘した。


気だるげな色の混じえながらも
あの見透かすような深い黒をした瞳が
ほんのいっときだけ圭介を射抜く。


スイッ

強く射抜いていたはずの瞳は
簡単に圭介から逸らされた。


どうやら言うとおりにする気はないらしい。


「……助けてやったのに
 それはないんじゃないのか?」


こんなふうにしか
彼女の興味を引けない自分に苛立ちを感じる。

上からものを言ったって
霞月はきっと見向きもしないだろう。


「助けてとは言ってない」


予想通りの答えに舌打ちしそうになる衝動をぐっとこらえた。