ドアが閉められたあとも
圭介はそこの前から動けないでいた。


確かに知り合ってから
数えるほどしか日は過ぎていない。

しかしあの瞳は
間違えなく圭介に何かを訴えかけているように見えた。

車の中にいるときから感じていた

違和感――…



このまま見過ごしてはいけないような気がする。

もう一度チャイムを押すべきか
低い唸り声を漏らした。


(なんの確証もないんだよな。
 相馬を呼び出して
 なにを言えばいいんだ……?)


しばしの自問自答。


その結果

圭介はもう一度チャイムに指を伸ばした。




――そのときだった。



バンッ!



なにかが叩き割られるような大きな音。


突然の出来事に
思わず身体をすくませた。


ドクドクと早鐘を打つ心臓をなだめつつ
そろりと目をあける。


足元に

霞月が転がっていた――…



「……え?」



何が起きたのか理解できず
足元の細い体躯を見つめ

反動で閉まりかけるドアに目を向ける。



ドアの隙間から見えたのは

さっきの温厚そうな表情からは
想像もできないような形相の彼女の兄の姿だった――。