何かを訴えかけられているかのような
その視線に
心がざわめく……。
「わざわざすみません
ご迷惑をおかけしまして」
思考を遮ったのは
彼女の兄の低い声だった。
丁寧に頭を下げると
彼はドアから顔を覗かせ
動こうとはしない霞月の手を引いた。
なされるがままに家の中に入り
霞月は兄の影に立つ。
「……じゃぁな、相馬
また明日な?」
その声に霞月は顔を上げ
もう一度圭介と視線を合わせた。
黒い瞳は
どこか心細そうな色を
しているように見えた。
違和感。
何かがおかしい。
そんな感覚がさっきからずっと続いていた。
だが
霞月はなにかを断ち切るように
スイッと視線をそらし
感情の見えない表情で
全てを覆い隠す。
逡巡する圭介の前で
分厚い扉が
ゆっくりと閉められた――…